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第七話 提案

last update تاريخ النشر: 2026-06-30 21:48:48

 お昼休み。

「あれ、紅さん、今日はお弁当?」

「あ、ああ~。そうです。ちょっと朝、余裕があったもんで」

 話しかけてきた同僚女性とは、いつもあちこち昼食を食べにいく関係。

「うーん、どっかでテイクアウトしてきますかー」

 そういって、彼女は職場を離れる。

 ふう。

 このお弁当は、もちろんハルちゃんの愛情弁当。ただ、さすがにそれはオープンにはできないので、自作ということにした。

 それにしても、彩り豊かで、可愛らしいお弁当だ。赤・黄・緑の彩りが、食欲を掻き立てる。

「いただきます」

 感謝の念を、これでもかと込めて合掌。

 ん! 卵焼き美味しい~。ブロッコリーサラダもグー!

 そして、メインのサンマフライ……。ほんと、美味しい。語彙力が崩壊しちゃうな。

 本気で、お嫁さんにしたくなってしまうなあ。ハルちゃんは私を好いてくれているようだけど、どのレベルなんだろう?

 少なくとも、ああいうこと・・・・・・をするぐらいには、好意を持ってくれているようだけど。

 人生設計かー。ハルちゃんと結婚。悪くないかもなー。

 同性婚禁止とか、遅れてるよ、この国。私も、すっかりこっち側・・・・で、考えるようになってるねえ。

 しかし、ハルちゃんに袖にされた御曹司ってどんな人だったんだろ。あのキョーレツな、吾文さんが頭をよぎる。

 あんなのと結婚させられるんだったら、可哀想だな。逃げて正解だったと思う、うん。

「おまたせー」

 考え事をしながら箸を進めていると、同僚が戻ってきました。

「おかえり。いい匂い。なんだろ?」

「タンドリーチキン弁当。カレーがけにしようか迷ったんだけど、接客業だから、あんま臭いきついのはちょっとね」

 そうね。一応、接客業だもんね。

「だいぶ進んでるね、そっち。急いで追いつかないと」

 フォークを、さくさくと進めていく彼女。

 ハルちゃんは今頃、面接してる頃かな。仕事、決まるといいけど。

 ◆ ◆ ◆

「ただいまー」

 今まで九年間、言う習慣のなかった言葉をかけながら家に入る。

 今日も、七時をだいぶ回ってしまった。

 すると、ちゃぶ台に突っ伏しているハルちゃんがいました。

「ありゃー……その様子だと、ダメだったか」

「全滅です。不況不況と聞いてましたけど、ほんとですね」

 顔も向けずに、無気力に言う彼女。

 ほんとにやんなるね。私なんて、生まれたときから不景気だもん。

 公務員に一発合格できただけ幸運よねえ。

「お弁当、おいしかったよ。そっちは、ご飯食べれてる?」

「お昼は、お弁当を。夜は、食欲が湧かなくて……」

 そりゃ、一大事だ。

「じゃあ、なにか食べやすいもの作ってあげる。待っててね」

 部屋着に着替え、エプロンを締める。

 やっぱりここは、おかゆさんでしょう。梅干しをつければ、食欲のないハルちゃんも、手を付けてくれるはず。

 ぐつぐつ……。

 できた!

「はい。食べないと、体持たないよ」

「おねーさんの手料理なら、いただかない訳にはいかないですね。いただきます。ふー……ふー……あ、味がしっかりしてる」

「ちゃんとね、だしをとったの。ただのおかゆじゃ、箸……じゃないか、レンゲが進まないでしょ」

 はふはふと、美味しそうに食べてくれる彼女。ありがたい。

 間もなく、完食してくれました!

「お腹、急に空いてきちゃいました。おかわり、もらっていいですか?」

「おまかせあれ! もうちょっと、しっかりしたものも食べる? 鮭、お弁当に使ってなかったよね」

「はい! お願いします!」

 元気が出てきたようで、何より。今度は、同じ要領で鮭のおかゆを作る。

「どうぞ」

「いただきます! ……美味しい! 美味しいです!」

「ちょっと、泣いちゃってるけど、大丈夫?」

 彼女の涙を、そっと拭う。

「あ、すみません。風邪引いたとき、ミドリさんが作ってくれたおかゆを、思い出しちゃって」

 ハルちゃんの初恋の人か。ちょっと、妬けちゃうな。

「私も、同じの食べようっと」

 おかゆをすくい、一緒にハフハフといただく。うん、我ながら上出来。ミドリさんも、病床のハルちゃんに、こんな感じのを作ってあげたんだね。

「……ごちそうさまでした。お陰様で、また明日、一日頑張れそうです」

「元気が出て、良かった。やっぱり、ハルちゃんは元気が一番だ!」

「はい!」

 とりあえず。食後のくつろぎモードで、今日の反省会。

「ハルちゃんのことだから、ソツなく受け答えしたと思うんだけど、何がいけなかったんだろ?」

 首を傾げる。

「とりあえず、近所のいろんなお店を回ってみたんですけど、やっぱり、ニュースになったのがまずかったらしくて」

 あーねー。私も最初、警察に通報しようとしたもんなー。もう、捜索願いは取り下げられているはずだけど。

「偏見を持たずに、ハルちゃんを見てくれるとこがあると、いいんだけどねえ」

 私に、コネだのツテだのあればいいんだろうけど……?

「あ!」

 私の素っ頓狂な声に、首を傾げる彼女。

「さしあたって、生活保護受ける?」

「生活保護、ですか」

 突拍子もない提案に、キョトンとする彼女。

「親類の支援は受けられないでしょ? 『二度とうちの敷居をまたぐな』って言ったことの証人に、私がなれる。で、個人所有の資産もお金もなくて。受けられるよ!」

「その、色々制限とかないんですか?」

「あるはあるよ。労働収入で自分のものにできるのは、一万五千円までとか。車持っちゃいけませんとか。で、ハルちゃん働くように言われるだろうけど、その気あるし、活動もしてるから、あんまうるさく言われないと思う」

 はー……とか言いながら、ぽかんとしてるハルちゃん。大企業の令嬢が生活保護とか、急転直下だものね。

「どうする? 当座を凌ぐだけって考えてくれたらいいよ」

「なんか、実感湧かないですけど、やります! 親の力を借りずに、生きたいですから!」

「よし、明日手続きに行こう!」

 こうして、当面の方針は決まり!

 慰労会ってことでノンアル飲んで、明日に備え、お風呂入って、大人しく寝ることにしました。

 そんな、毎日毎日やらない・・・・よ!

 ◆ ◆ ◆

 そんなわけで、翌日。さっさと登庁して、ハルちゃんを待つ。彼女が来たら、さくっと必要事項を記入してもらう。

 で、一応の義務として吾文さんに、扶養の意思を確認してみたわけだけど……「馬鹿も休み休み言え!」と、乱暴に電話を切られてしまいました。

 まあ、これはむしろ計算のうち。ハルちゃん自立の方便が立った。

 私と同じ住所とは、どういうことかと課長に問い詰められたけど、そこはしらばっくれても仕方なし。素直に同居していることを告げる。頭を抱える課長。不肖の部下で、すみません。

 ともかくも、受理してしまったらもう突っ返せるものではないので、ここに晴れて、ハルちゃんの生活保護が決まりました。

 かくしてハルちゃんは退庁。保険事務所で当座の生活費を得るわけです。

 あとはもう、お仕事探し頑張れ! と祈るほかない私でした。

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